朝潮太郎(あさしお たろう)

いしいひさいちのコミックの主人公になったくらいの人気者でした。しかもご本人はこの作品を読んでいたらしく、作品に取り上げられた土俵上のしぐさをすぐに変えたりしていました。作品中のキャラクターが良く当人の雰囲気を伝えていたのもおもしろかったですね。

近畿大学から相撲界入りしたのですが、その理由として「ホフマン方式で将来を計算してみたら」とかと、理路整然としていたのが、異色ですね。ま、「エンゲル系数」の問題でなくて良かったですけど・・・

入門の記者会見の時に「プロでも横綱を目指します」と宣言したのですが、学生時代の実績も見事でした。学生横綱、アマチュア横綱をそれぞれ二年連続して獲得して、期待されて相撲界入りしました。幕下付出でデビューして、あっという間に幕内に昇進してしまいました。相撲は高砂部屋伝統の前に出る突き押し相撲でした。便宜上ここでは「二代目」としてありますけど、本当は違います。確か五代目になるはずです。でもこの四股名を名乗ったと言う事は、この人への期待をあらわしています。過去、朝潮を名乗った人は皆大関以上に昇進していますからね。ですから朝潮はその期待に応えたと言う事になります。そういう点では立派ですね。

朝潮は、稽古相手に恵まれていました。同じ部屋に富士櫻、高見山という前に出る相撲の人がいたからです。特に大きな高見山の胸に思いきりぶつかれたおかげで、強い立合のぶちかましを身につける事ができました。これが朝潮の大きな武器になったのはいうまでのありません。

良い時の朝潮は頭からガンと当って、一気に相手を持っていってしまいました。特に北の湖に強く、あの北の湖が苦手にしていました。なんか印象としては朝潮に勝てなくなったので引退したようなところもあります。

朝潮がいい当りをした時は、いつも頭から血を流していました。朝潮の相撲は立合の当りから始まりますから、勝ち名乗りを受ける時に頭から血を流している事が多い場所はいつも好成績でした。また自分を盛り上げてムードに乗るのがうまかったですね。「大ちゃん」というあだながあったのですが、ちょっと調子がいいと「自分は波に乗るのがうまいんだ、だから波乗り大ちゃんさ」といって自分を盛り上げ、ついでにマスコミまで巻き込んでしまいました。頭がいい人で、見出しになる言葉を良く披露していました。こんな点でマスコミ受けする人だったのですね。

大関としても十分強かったのですが、朝潮を名乗った人の宿命なのか、もう一つ成績が安定しませんでした。それと今一つ稽古が足りない印象を与えていたのも減点材料となり、ついに横綱にはなれませんでした。

引退後は、一時山響を名乗っていましたが、一門の若松親方(元房錦)が病気のため部屋経営を断念したのに伴い、若松を襲名しました。親方としての実力はまだ未知数ですが、頭の切れる人なので、これからが期待されます。


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